ポール・グレアム

Y Combinator 共同創業者

なぜGoogleは唯一無二なのか

Umair Haqueが最近書いた記事によるとGoogleのような会社が出てこないのは、多くのスタートアップが世界を変えるような成功を収める前に買収されてしまっているからだという。

Googleは当時かなりの額でMicrosoftとYahooからの買収のオファーを受けたがそれに応じなかった。当時のGoogleはYahooやMSNの検索エンジンでしかなかったにもかかわらずだ。

なぜだろうか?

それはGoogleが" 世の中をより良いものにするという信念 "を持っていたからである。

そう言われると聞こえがいいが、実際は違っていた。Googleの創設者は早期のうちに売却したかったが、ただ彼らはオファー以上の金額を期待していただけなのである。

これはFacebookにとっても同じであった。Facebookはすでに買収されていてもおかしくなかった。ただ、提示額があまりも少なすぎたため、YahooはFacebook買収のチャンスをふいにしてしまったのだ。

買収する側へのアドバイス : もしスタートアップがあなたのオファーに応じなかったり、金額を上げる交渉をしてきた場合、それはそのスタートアップが化けるチャンスがあることを意味している。その当時はでたらめなくらい莫大な金額であっても後々それが安く思えるくらいの価値がでてくる可能性がある。

私がこれまでに見てきた例でいうと、買収のオファーに応じなかったスタートアップは大抵その後いい成績を残している。常にではないが、その後によりよいオファーが来たり、IPOしている時もある。

上手くいっているスタートアップがオファーを断る理由はいつも買収額が過小評価されているだけではない。むしろそういった大きいオファーを断るようなガッツのある創設者は成功しやすい傾向がある。その精神はまさしくスタートアップに必要なものである。

Googleの創業者ラリー(Larry) と サージー(Sergey) が世界を変えようと働いている間、Googleが大企業として、また独立した会社として生き残れた理由は、Facebookが未だにどの会社とも合併せずに独立している理由と同じである。買収側が彼らを過小評価していたのである。

その面でいうと企業のM&Aは奇妙なビジネスである。M&Aを行うことはつまり最高の取引を逃していることになる。なぜなら適切なオファーを受け入れるかどうかが、そのスタートアップが今後大きくなるかどうかを見極める最も信頼できる判断基準だからである。

VC

ところで、この世に第2のGoogleが誕生しないのはなぜだろうか?不思議なことに、それはGoogleとFacebookが未だに独立した会社として残っている理由と同じである。買収側が革新的なスタートアップを過小評価しているのである。

第2のGoogleが誕生しない理由は、投資家がスタートアップに買収のオファーを受け入れてもらうように働きかけていないからではない。むしろ投資していないのである。私はY Combinator(以下YC)でこれまで3年間VCについて多くのことを学んできた。彼らと密に関わることはよくあるが、その中で私が最も驚いたことはVC達が保守的なことであった。VCと聞くと大胆で革新を促しているようなイメージがあるが、実際のところそのイメージに当てはまるのは一握りの人だけである。あなたが彼らのサイトを読んで想像している以上にVC達は保守的である。

かつて私はVCに対して海賊のようなイメージがあった。大胆で無節操なイメージである。彼らについてより認識が深まり分かったことは、海賊というよりも官僚に近いということであった。彼らは良い意味で私が以前思っていたよりも正直で責任感がある。ただ思っていたよりも大胆さがない。もしかするとVC業界は変わったのかもしれない。かつて彼らはもっと大胆だったのかもしれない。だが私が思うに、変わったのはVC達ではなくスタートアップの方だ。スタートアップを始める費用があまりかからないことは平均的な良い会社にベットすることはよりリスクの高いものとなる。それにもかかわらず多くのVCは未だに1985年のハードウェアのスタートアップに投資しているかのように動いているのである。

ホワード・エイケン( Howard Aiken) は以下のように言っている。「他人にあなたのアイデアを盗まれることを心配していてはいけない。もし自分のアイデアが良いものであると自負しているのなら、もしろそれを相手に見せつけるくらいの気持ちでなければいけない。」

YCが投資したスタートアップに投資するようVCに話を持ちかけた時に私は同じような感覚をもっていた。彼らは本当に革新的なアイデアを採用することに内心恐れを抱いていた。VC達のそのためらいを埋めるくらいセールスの上手い創設者がいたのも確かだが。

大きなリターンを得ようとするのは大胆な考えである。どんなにいいアイデアでもほとんどの人にはそれが悪く見えるのだ。そうでなければ他の誰かがすでにそれをやっているだろう。

未だに多くのVCは自分の会社だけではなく、他のVC全体とのコンセンサスを元に動いている。VCがあなたのスタートアップをどのように思っているかに関しての決定的な判断基準は他のVCがあなたの会社をどう思っているかにかかっている。彼らもすでに気がついているだろうが、このアルゴリズムによって全ての素晴らしいアイデアを見逃している。

次なるGoogleが誰であれ、勢いを持った彼らは今頃VC達から声がかかっているだろう。

なぜVCはそんなにも保守的なのだろうか?それには様々な要因が組み合わさっているだろう。

莫大な金額の投資が彼らを保守的にしている。さらに彼らは他人のお金を使って投資をしている。だからリスクのあることをして失敗をし、トラブルに巻き込まれることを懸念しているのだろう。もう1つ付け加えると、彼らは技術を持ち合わせておらず、ただお金を動かすことができるだけである。だから自分達が投資しているスタートアップが何をしているか理解していないのだ。

投資の方法

市場経済で面白いことは愚かな行為こそがチャンスを生み出す可能性があることである。たとえばこういった場合だ。スタートアップ投資にはこれまでに経験したことないような転機を迎える場合がある。YCは初期の段階でスタートアップ投資をする。それに比べ、普通のVCは彼らが成功し始めてから投資をするだろう。この両者の間には大きなギャップがある。

創業者しかいないようなスタートアップに2万ドル投資をする会社がある。また、成功し始めているスタートアップに200万ドル投資をするがある。ただ、将来は有望だがまだ解決しなければならないことが残っているスタートアップに20万ドル投資をする者は多くない。この領域は現在ほとんど個人のエンジェル投資家が占めている。例えば昔Googleがまだ完全ではなかった時代に100万ドル投資をしたアンディー・ベクトルサイム( Andy Bechtolsheim)が挙げられる。私はエンジェル投資家が好きだ。彼らにとって投資とはアルバイトのようなものである。この世にはもっと多くのエンジェル投資家が必要である。

スタートアップを始める費用が小さくなるにつれて、この多くの投資家が目をつけていない領域はさらに価値を増していく。最近では多くのスタートアップがAラウンドで数百万を調達することはしたくないと思っている。彼らにとってそれほど多くのお金は必要なく、むしろ巨額の資金調達によって伴う混乱を避けたいとさえ思っている。

YCから誕生した平均的なスタートアップは約25万ドルから50万ドル程の資金が妥当だと感じているが、実際にVCに行くとより高い額で交渉する。それはVCが少額の取引には興味を示さないことを知っているからである。

VCは金銭管理者のような役割がある。彼らはいかに巨額なお金を動かすかについて考えている。しかしスタートアップの世界はVC達が思っている現在のモデルから遠ざかっているのである。

スタートアップにかかる資金は安くなった。それは彼らが必要とする資金が少なくなったことを意味するが、同時にスタートアップの数が増えたことも意味している。つまりVCは未だに多額の資金を投資し、そこから高いリターンを得ることは可能なのである。ただ投資する幅を広げればよいのである。

私はこれをVCに説明しようと努めてきた。1つのスタートアップに200万ドルの投資をするかわりに5つの会社に40万ドルづつ投資すればよいのである。

投資額をいくつかのスタートアップに分散させることはより多くの役員に就かなければいけないと感じるだろうか?いや、負担に感じることはない。彼らの役員に就く必要はないのである。注意を払わなければならない仕事が増えると感じるだろうか?その必要はない。責任ある仕事を減らせばいいだけである。10分の1の額を投資するのであれば、あなたの負担も10分の1でよいのだ。それは当たり前のようにも思える。

しかし私は違ったアプローチとしていくつかのVCに以下の提案をしてきた。それはいくらかのお金を確保しておき1パートナーにその資金を使ってより多くの、少額の投資を行うように使命する、という内容だ。それを聞いた人達は皆無茶苦茶だ、と腑に落ちない反応を示した。彼らがどれほど自分達の基準に固執しているかには驚いたものだ。

しかしその背景には大きなチャンスがあるのだ。どっちに転ぶにしろそのギャップは埋められるだろう。VCがこのギャップに対応できるようになるのか、はたまたこのギャップを埋める新しいタイプの投資家が現れるのか。

新しいタイプの投資家が出てくることはいいことである。彼らは現在のVCのやり方の10倍も大胆な投資の構造に従わざるを得なくなる。そのことにより多くのGoogleのような会社が誕生するかもしれない。買収側が良い意味で馬鹿でいることができれば、の話である。

ノート

[1]その他のアドバイス : もし買収したスタートアップの価値すべてを自分のモノにしたいのであれば買収後にそれを潰すような行為はすべきでない。創設者に十分な自治権を与えることが買収の効果を最大限に発揮させる秘訣である。

原文 : http://www.paulgraham.com/googles.html
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