ポール・グレアム

Y Combinator 共同創業者

スタートアップアイデアを思いつく方法 Part.2

気づき

ある程度未来が見えてくれば、スタートアップアイデアの可能性に気がつくためには、逆算して今足りていないものを探すことができます。急速に変化し続けている業界に精通しているのであれば、今足りないものは何か気がつくことでしょう。しかし、それがスタートアップアイデアであるとは、すぐに気がつかないかもしれません。なので、スタートアップアイデアを求めているのであれば、ただ「何が足りていないか」と意識するだけでは足りません。他のことは全て気にしないこと、特に「これは大企業になり得るアイデアか」などと考えないことが重要です。それを検証する時間はあとでいくらでもあります。しかし、もしそれを最初に考えてしまうと、良いアイデアを見捨ててしまう上、悪いアイデアに集中してしまうことになってしまいます。

欠けているものに気づくには時間がかかるでしょう。自分を騙すかのようにして周りにあるアイデアを発見しなければなりません。

しかし、何かしらのアイデアがあるということには気づいているはずです。アイデアがないということはありえないのです。今いる時代で全ての技術革新が止まるなど、不可能に近い話です。「Xがある前はどうしていたんだっけ?」と思わせるような製品は、数年でいくつも開発されるでしょう。

そして新しい製品によって問題が解決されると、まるで当たり前の解決策であったかのように感じるでしょう。あなたのしなければならないことは、その解決策を見えないようにしているフィルターを切ることです。例えば、現状の世界を当たり前であると思ってしまう、といったフィルターのことです。これは、視野の広い人ですら常には切っていません。いちいち疑問に感じていては、ベッドから玄関までの毎日の道のりすら非常に長くかかってしまいます。

しかし、スタートアップアイデアを求めているのであれば、現状を当たり前には感じず、疑問に思う必要があります。なんで受信箱がメールでいっぱいなのか。メールをたくさん受け取っているから?それとも、受信箱からメールを移動するのが大変だから?なんでそんな多くのメールがきているのか?あなたにメールを送ることで人々は何を解決しようとしているのか?他により良い解決策はないのか?そしてなぜ受信箱からメールを移動するのが大変なのか?なぜ読んだ後もメールをそのまま放置しているのか?本当に受信箱が最適なツールなのか?

少しでも不自由に思ったことには注意を払ってください。現状を当たり前に感じることの利点は、より生活が効率的になるだけでなく、不自由を無視することでより快適に生活できることです。もし、50年後にあるもので今ないものを全て知っていたとすれば、きっと不自由で仕方がないでしょう。あなたが50年前に飛ばされても同じことでしょう。何か不自由に感じるのであれば、それはあなたに未来が見えているという証です。

対処したい問題を見つけたならば、それが「当然」問題であると説明できるようにならなければなりません。Viawebを始めたとき、オンラインストアは全て、それぞれのウェブデザイナーが一つ一つHTMLページを作っていました。しかし私たちプログラマーからすれば、それらのサイトがソフトウェアで生成されることが当然のことでした。[5]

つまり、スタートアップアイデアを思いつくとは、当たり前のことを見ようとすることなのです。おかしなプロセスに感じることでしょう:見ようとしていることは当たり前のことでありながら、まだ見たことのないものなのですから。

ここでしなければならないことは、視野を広げることなので、問題を解決しようとムキになってはいけません。座り込んでアイデアを考えるなどもってのほかです。最善の方法は、ただ何気なく今欠けているものについて考えることです。難しい問題について、好奇心から考えてみてください。そして、常にもう一人の自分で見えるものの違いや異常についてメモをとってください。[6]

時間にゆとりを持ってください。自分の頭を準備された頭に変える力はありますが、良いアイデアのタネとなる刺激に関してはどうしようもありません。もしビル・ゲイツとポール・アレンが一ヶ月でスタートアップアイデアをおもいつけと言われ、その一ヶ月がAltairの発表される前だったらどうしようもありません。おそらくよりつまらないアイデアで働いていたでしょう。ドリュー・ヒューストンはDropboxの前によりつまらない、SAT準備のスタートアップをしていました。しかし、Dropboxの方がアイデア自身も、自分の技術との相性も良いものでした。[7]

良いアイデアに気づくように自分を騙す方法の一つとしては、あったら良さそうなプロジェクトに関わることです。そうすれば、自然に足りていないものを作るようになるでしょう。すでに存在しているものを作ろうとしても、あまり意味がありません。

スタートアップアイデアを考えようとすると良くないアイデアに行き着いてしまうように、「おもちゃ」のようであると無視されがちな考えは良いアイデアに繋がることがあります。何かがおもちゃのようであれば、それはアイデアに必要なものは全て揃っているものの、重要性がないということです。かっこよくて、ユーザーに好まれようが、関係ないのです。しかし、あなたに未来が見えていて、ユーザーの好むかっこいいものを作ることができれば、部外者の思う以上に大きな影響力を持ちます。マイクロコンピューターは、AppleやMicrosoftが開発し始めたときはおもちゃのようなものでした。その時代を思い出せるほど歳をとっているわけですが、自分のマイクロコンピューターを持つことは、「趣味」であると言われていました。BackRubは、小さな科学プロジェクトのようなものでした。Facebookは学部生がお互いをストーカーするためのおもちゃでした。

YCでは、フォーラムで専門家がおもちゃであると無視しそうなアイデアを持ってくるスタートアップが大好きです。私たちにとってそれは、アイデアが良い証拠なのです。

もし、じっくりと周りを見たいのであれば(そうすべきです)、「未来を見て、足りないものを見つける」という考えを進化させることができます。

未来を見て、面白そうなものを作る。

学校

大学生は「起業とは」について学ぶことよりも、こちらの方が良いと私はよく言います。「起業とは」、実際に経験して学ぶものです。大学で時間をかけるべきことは、未来のための準備です。大学は、そのための絶好の機会なのですから。起業に関する簡単なことを学ぶことに時間をかけてしまい、スタートアップを始めるにあたって難しいことを解消できる機会を無駄に - オーガニック(自然に思いついた)アイデアを持てるような人間なる機会を失ってしまいます。特に、そんな授業は学校の性教育で学べることよりも学べることが少ないので、尚更です。

分野のぶつかりあいは、アイデアの生まれる源です。プログラミングについて詳しくて、新しいことについて学べば、ソフトウェアで解決することを見つけることができるでしょう。実際、1. その分野で生活している人間は、ソフトウェアに精通している人ほどソフトウェアで問題を解決することに慣れていないため。2. 無知の状態でその分野に入ってくるため、現状を当たり前のように受け入れないため、他の分野でこそ良い問題を見つけることができます。

なのでコンピューター科学を専攻していて、スタートアップを立ち上げたいのであれば、起業に関する授業ではなく、例えば遺伝子学について学ぶ方が良いでしょう。あるいは、バイオテックの企業で働くのも良いでしょう。コンピューター科学専攻の人は普通ハードウェアやソフトウェア企業でインターンします。しかし、スタートアップのアイデアが欲しいのであれば、関係のなさそうな分野でインターンするのも良いでしょう。[8]

あるいは、授業はそれ以上取らずに、実際作り始めてください。MicrosoftもFacebookも一月に始まったのは偶然ではありません。ハーバードではそれがReading Period(読書期間)という、期末勉強のために授業に出席しなくても良い期間だったからです。[9]

しかし、スタートアップになるようなものを作ろうとはしないでください。それには早すぎます。とりあえず作ることに専念してください。他の学生と一緒ならばなお良いでしょう。未来に準備する上で大学が良い環境であるのは、授業があるからだけではありません。同じことをしようとしている他の人間に囲まれているのです。プロジェクトで一緒に働けば、オーガニックなアイデアに行き着くだけでなく、オーガニックな創業チームができるわけであり、それこそが最高のコンビネーションです。

研究には注意してください。学部生が友達全員の使うようなものを作れば、それはきっと良いスタートアップアイデアでしょう。しかし大学院では難しいでしょう。どういうわけでか、プロジェクトが研究のようになるほど、スタートアップにはなりにくいものになります。[10] 理由はおそらく、研究の対象となるアイデアはあまりに狭いため、研究として優秀さを重視し、ユーザーの問題を解決することを軽んじてしまいます。しかし、学生(や教授が)サイドプロジェクトとしてつくったものは、ユーザーの問題を解決させることに重視します。研究であることによる制限がないので、より効果的になるのかもしれません。

競争

良いアイデアというのは、当たり前のように感じるものなので、出遅れているのではないかと心配するかもしれません。しかしあまり気負わないでください。出遅れているのではないのかと心配することは、良いアイデアである証です。また、この疑問はウェブで10分ほど検索すれば解明することでしょう。たとえ他の人が同じことに取り組んでいるとしても、遅すぎることはありません。スタートアップが競合につぶされることはほとんどありません。あまりに珍しいことなので、その可能性はないものと仮定して良いでしょう。なので、ユーザーを囲い込むような競合でもない限り、アイデアを捨てないでください。

もしそれでも疑問があれば、ユーザーに尋ねてみてください。遅すぎるかどうかは、あなたが作ろうとしていることを緊急に求めているユーザーがいるのかどうかによります。もし、他の競合にはないアイデアを持ち、それを求めているユーザーがいるのであれば、それは良い上陸拠点です。[11]

あとは、その上陸拠点が十分に大きいかどうかということです。そして、誰がいるかということです。もしその上陸拠点にいる人のしていることが、今後多くの人がしそうなことならば、それは今どれほど小さな数であったとしても十分に大きい可能性が高いでしょう。例えば、もし競合との違いが、最新の携帯でしか動かないものであるとしても、それはかなり大きな上陸拠点なのでしょう。

そして、競合を相手にしたときにすべきこと。経験の浅い創業者は、競合を過大評価しがちです。成功するかどうかは、競合以上に、自分が大きな影響を持っています。なので、競合がいても良いアイデアを持っている方が、競合のいない悪いアイデアよりも良いでしょう。

他のみんなの見落としていることに関する仮説がある限り、「混み合った市場」に入ることにあまり心配する必要はありません。それがあれば、とても良い出発点です。Googleも、そのようなアイデアでした。しかし、「とりあえず最高なXを作る!」などといった仮説では不十分です。競合の見落としているようなことを具体的に説明できなければなりません。さらに良いのは、競合は勇気がないため逃げた考えであり、自分の計画は競合が最初の信念通りに動いていれば行なっていたことである、と話すことができることです。Googleもそうでした。彼らの前にあった検索エンジンは、本来の目標と違うことをしていたのです。より良い仕事をするほど、ユーザーの滞在時間は短いため、臆病になっていたのです。

混み合った市場というのは、需要があり、どの解決策も十分でないということなので、良いことです。大きく、なのに競合のいないような市場は現実的にありえません。なので、成功するスタートアップは、(Googleのように)競合のいる市場に入りながらもユーザーを全て勝ち取ることのできるような秘密兵器を持っているか、(Microsoftのように)今は小さく見えても大きくなる市場に参入するのです。 [12]

...Part 3 につづく

[5] ウェブが大きくなることは当然でした。1995年でそれに気がついた非プログラマーの数は少なかったものの、プログラマーがGUIがデスクトップに及ぼした影響をしっかり見ていたのです。

[6] この二人目の自分には、日記を書かせるの良いかもしれません。毎晩、その日に気づいた違いや異変について書くのです。スタートアップアイデアとしてではなく、純粋に違いや異変について書くのです。

[7] サム・アルトマンは、アイデアを考えるのに時間を多くとるのは、より良い戦略である上に、あまり多くの創業者が行なっていない、過小評価されたことであると言っています。

最も良いアイデアは、創業者が時間をかけて気がつくため、比較的競争が少ないものです。しかし、平凡な考えは、皆似たような考えを持つため、大きな競争があります。

[8] コンピューターハードウェアやソフトウェア企業にとっては、インターンは最初の採用ステップです。しかし、実力があればこのステップは飛ばせます。優秀であれば、夏をどう過ごしていたとしても、卒業して雇われるでしょう。

[9] 経験則から、もし大学が学生に起業させたいのであれば、正しい方法で放置することが一番のようです。

[10] ITスタートアップについてです。ビオテックでは、また話が違います。

[11] これは、より一般的なルールの例です。競合ではなく、ユーザーに集中すること。競合に関する最も重要な情報は、ユーザーから得ることができます。

[12] 実際には、最も優秀なスタートアップには両方の性質があります。そして、市場と呼ぶものの域を対応させることで、戦略を説明することができます。しかし、この二つの考えを分けて考えると便利でしょう。

原文 : http://www.paulgraham.com/startupideas.html
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